滋賀一周トレイル「大シガイチ」への挑戦 #2
大シガイチ、滋賀一周トレイル430km/30,000mD+をスルーハイクしようと挑戦を開始したが、祖母が亡くなったとの連絡を受け、急ぎ下山。スルーハイクの夢は一旦叶わなかったものの、セクションハイクに切り替えて、全踏破を目指していきたい。
今回は、2025年4月28日から29日、在所岳から近江長岡駅までの記録です。
4/28 PM12:00 御在所発 - 4/29 PM2:30 近江長岡駅着
区間距離:63km(累計169km)|区間累積標高:4,600m(累計12,100m)
前回の離脱地点、御在所まではロープウェイを使う。11:30に到着したので、カレーうどん(絶品)を食べ、12:00ジャストに出発。本日は雨予報だ。前回が雨の中での行動だったので、今回も同じ条件だなと思いながら進む。
1時間程度でパラパラと降り始め、すぐに本格的な雨になった。これはたまらないとレインウェアに着替える。今回のレインウェアは前回とは違い、Teton Bros.のTsurugi Lite Jacketを使用した。
レインウェアの防水性能や透湿性能の数値は、実際の着心地とは必ずしも一致しない。超軽量のレインウェアは雨が降っていないときには快適で、少しの雨なら問題ない。ただし、1時間以上の長時間にわたって雨に打たれると、表面の生地が水を吸ってしまいがちだ。軽量であるほどその傾向は強く、これはスペックには表れない現象だ。防水性は保たれるものの、表地が濡れることで透湿性が失われる。
新品での初回使用時はどの製品も撥水力が最大の状態なので、「良い製品だ」と感じやすい。だが、実際に長時間雨の中で行動する人は少ないため、初回使用レビューばかりが目立つ。
軽量なレインウェアを否定しているわけではない。私自身、基本的には軽量モデルを使っている。長時間の雨に打たれない状況であれば、軽くてコンパクトなレインウェアを使いたいと思っている。また、終わりが見えている行程や、雨に耐えてでも軽量化したい場合にも有効だ。
軽くて薄いレインウェアは自然乾燥も速く、濡れに対して一概にデメリットばかりではない。寒い場合はアクティブインサレーションを挟むことである程度の快適さを保てる。
今回は行程に終わりがあること、そしてある程度の我慢を前提に、軽量モデルを選んだ。それでも、長距離の山行ではfinetrackのレインウェアを使いたい。多少重くても、濡れへの強さがそのメリットだ。
さて、今回の装備。上はツルギライト、下はマイルストーン。マイルストーンのパンツはワタリが広く、履きやすい。価格も良心的だ。パンツに関しては、私のスタイルでは薄手一択。上よりも下は薄くても良いと思っている(理由は長くなるので割愛)。その点でマイルストーンは非常に快適だ。
ツルギライトを選んだ理由はポケットの大きさ。雨の中でもスマホや補給食を頻繁に取り出したい。ベンチレーションも兼ねたこのポケットは非常に使いやすく、GPSを使ったルートファインディングが必要な今回の山行では大いに役立った。
雨に降られて1時間ほどで、マイルストーンのパンツの表面が濡れ始めた。一方でツルギライトはまだ撥水が効いていた。過去に何度も使っていたので気にしていなかったが、製品ごとに撥水力の差があることを改めて実感した。結局、夜まで雨に打たれ続けることとなった。
今回のルートは、鈴鹿の主要な山を北上していく縦走ルート。御在所から釈迦ヶ岳、竜ヶ岳、藤原岳へと進む。アップダウンはあるが、明瞭なトレイルで景色も良く、植生も美しい。釈迦ヶ岳の下りで、YouTubeをされているヤマロックのアツシさんに偶然出会う。Instagramでやり取りしたことはあったが、思わぬ出会いにテンションが上がった。彼は「鈴鹿ファイブw」に挑戦しているそうで、しばらく談笑しながら進むと、足取りも軽くなった。
藤原岳の避難小屋には20:30頃到着。行動開始から約8時間半。濡れたウェアは乾き始めていたが、湿気を含んでいて不快だった。雨も止んだのでレインウェアを脱ぎ、短パンからロングパンツに履き替える。上はマイルストーンのフーディを着用。これから先はルートファインディングが必要な区間になるため、スピードが出せず、寒さを想定してインナーにアルファダイレクトを挟んだ。
靴は完全にずぶ濡れ。足裏トラブルを避けるため、丁寧に足を拭き、テングバームを塗り、ドライレイヤーの靴下に履き替えた。本来はインナー用だが、濡れた際は単体でも保水せず快適。
補給を済ませ、避難小屋を後にする。ライトに反射する複数の目——鹿の群れがこちらを見ていた。雨は止んでいたが、霧が濃く、トレイルの入口を探すのに苦労した。ようやくルートを見つけ、五僧峠を目指して進む。
藤原岳から五僧峠の区間は非常に厳しかった。道が不明瞭で、人が頻繁に通った痕跡もなく、小さなピンクテープだけが頼り。GPSと等高線を見ながらルートを修正し、低木をかき分けて進む。RIDGEのベーシックハイクパンツで良かった。レインパンツなら破れていたかもしれない。霧と小雨で視界が悪く、マイルストーンのMS-i1はバランスの取れた良いヘッドランプだが、今回はより暖色系の光が欲しかった。黄色のフィルムを持参すべきだったかもしれない。
ふわっとした地面に足を取られる感触が増えると、ほとんど誰も通っていない証拠だ。GPSを見ると案の定ルートを外れている。こうした確認の繰り返しは、精神的にも体力的にも消耗が激しい。
この区間にはビバークできそうな場所がまったくない。とにかく峠まで降りて、仮眠を取るつもりで進み続けた。なんとか大きなロストなく到達。後日、昼間でも迷いやすいルートだったことが判明した。
峠にはツェルトが2張。大シガイチのチャレンジャー以外にこんな場所に泊まる人はいないだろう。安心感が湧いた。
川で水を汲み、戻ってお湯を沸かしていると、ツェルトの一人がこちらに近づいてきた。女性だった。「大シガイチですよね?」と挨拶を交わす。もう一人のツェルトの女性と一緒に行動しているようだったが、まだ起きていないとのこと。後でその方も合流し、しばらく談笑した。
仮眠も考えたが、一緒に進もうと思い直し、食事を済ませて出発。霊仙山へは標高差約600mの登りだが、特別な急登はなく比較的歩きやすい。景色も木々も美しく、同行者との会話も新鮮だった。
この日のうちに帰宅予定だったため、下山後の行動範囲を制限し、目的地は近江長岡駅とした。
霊仙山の山頂付近はカルスト地形が広がり神秘的な景観となる。同時に風が強まり、同行していたOさんが風にあおられて転倒する場面もあった。風速は20m近かったはずだ。半袖の腕が冷え、赤くなる。視界が徐々に悪くなっていく感覚があり、かつて赤岳で同様の状況に陥った経験を思い出す。私の身体は、強風で体温が奪われると左目に異変を起こすらしい。
避難小屋で着替えて体を温める。小屋にはハイカーペアがおり、ベーコンやホットサンドを作っていた。私も下山後は温かい食事とビールを楽しむと決め、柿ピーをつまみながら気持ちを整えた。
依然、爆風は続いたが、霊仙山の壮大な風景を堪能しながら山を下りる。しかしながら登山道かどうか分からない道が続く。踏み跡らしきものがあるが、これはトレイルなのか?地形とルートを確認しながら進むが、途中で気がついた。これは登山道ではない。ただの急斜面を下らされているだけだ。地形と等高線を照らし合わせながら斜面を下り続ける。昼間で良かった、夜ならロストしていたかたもしれない。
最後の最後まで道とは言えない道を下り街についた。靴はドロドロだ。当然換えの靴やサンダルなど持ってきていない。川に足を突っ込み、泥を落とした。幸いこの日は天気が良く、道路を歩いているうちにかなり乾いてきた。
そして念願のコンビニへ。カップ麺とビールで幸福を噛み締めた。その後、近江長岡駅を目指すが、気が抜けた3人パーティーは道を間違えながら駅に到着。別れを告げて、それぞれの帰路についた。
残り約270km。次回は一気にゴールまで行くつもりだ。
今回のピックアップアイテム
今回のような山行では、手袋や靴下は夏でも2セット以上持つのが基本。怪我防止、足のトラブル防止、冷え対策のためだ。特に手の怪我は起こりやすいため、丈夫で雨に強く、通気性のある手袋が必要になる。また、保温性のある予備手袋も重要。1セットですべてを満たす手袋はないため、2種の手袋を組み合わせて使っている。
【メイン手袋】
完全防水ではないが強撥水で通気性が高く、軽量。濡れても乾きが非常に早い。スマホ操作や細かい作業も可能で、信頼できる1枚。
【保温・バックアップ用】
フリース素材で暖かく、オーバーミトン付き。風にも強く、冷えた手を包み込んでくれる。今回のようなハードな山行では予備用だが、もう少し穏やかな山行ならメインにもなり得る。
大シガイチについて
「大シガイチ」は、琵琶湖を擁する滋賀県をぐるりと一周する「滋賀一周トレイル」を全て自力で踏破する、セルフチャレンジ形式のイベントです。滋賀一周トレイル(通称シガイチ)は、総延長438km・累積標高28,300mにも及ぶ日本最長級のトレイルで、その9割以上が山道やダートの林道で構成されています。標高自体は1,000m前後と比較的低めですが、不明瞭な道も含まれており、一定のルートファインディング力と登山経験が求められます。また、古くからの街道や山城跡など、多くの歴史が残るエリアを通過するため、美しい景色とともに日本の文化や人々の暮らしの痕跡を感じられるのも大きな魅力です。