滋賀一周トレイル「大シガイチ」への挑戦 #1
大シガイチ、滋賀一周トレイル430km/30,000mD+をスルーハイクしようと挑戦を開始しましたが、3日目の朝、祖母が亡くなったとの連絡を受け、急ぎ下山しました。スルーハイクの夢は一旦叶わなかったものの、今後はセクションハイクに切り替えて、全踏破を目指していきたいと考えています。
今回は、2025年4月20日から23日午前までの2日半、大津港から御在所岳までの記録です。忘れないうちに備忘録として残しておきます。
大シガイチについて
「大シガイチ」は、琵琶湖を擁する滋賀県をぐるりと一周する「滋賀一周トレイル」を全て自力で踏破する、セルフチャレンジ形式のイベントです。滋賀一周トレイル(通称シガイチ)は、総延長438km・累積標高28,300mにも及ぶ日本最長級のトレイルで、その9割以上が山道やダートの林道で構成されています。標高自体は1,000m前後と比較的低めですが、不明瞭な道も含まれており、一定のルートファインディング力と登山経験が求められます。また、古くからの街道や山城跡など、多くの歴史が残るエリアを通過するため、美しい景色とともに日本の文化や人々の暮らしの痕跡を感じられるのも大きな魅力です。
今回の装備計画
実際の行動:1日目(2025年4月20日)
AM8:20 大津港出発
非常に暑くなるという前情報があり、TシャツをTetonのメリノからSTATICのHiveに変えようと思っていたが、当日は思ったより肌寒く、結局メリノTシャツを選んだ。
この日の目標は、約69km先の余野公園。累積標高は3,300mほど。距離はあるが、極端なアップダウンは少ない。だからこそ進めてしまう。スピードをいかに抑えて、自分のペースを守れるかを意識しながら進んだ。
トレランではなんて事のない距離でも、6-8kg弱の荷物を背負って歩いたり、小走りしたりしていると、身体のどこかにじわじわとダメージが蓄積していく。下り以外は基本すべて歩きとし、ダメージを最小限にとどめることに集中した。
大津港から余野公園までは東海自然歩道がルートになっており、整備されたトレイルや里山、集落、田園地帯をつなぎながら進んでいく。歩くにつれ、その土地ごとの風景や文化が立ち上がってくるようなセクションだった。とにかく歩きやすく、道標もしっかりしていて安心感がある。いつかこの道を、最初から最後まで繋げて歩いてみたいと思えるロングトレイルルートだった。
余野公園に到着したのは24時を過ぎてから。予定よりも遅くなったが、天候が良かったためツェルトは使わず、エスケープビビィにくるまってそのまま仮眠を取った。眠ったのは4時間ほど。
AM00:30 余野公園着|距離:69km|累積標高:3,300m
2日目(2025年4月21日)
AM5:10 余野公園出発
4時間ほど仮眠を取ったことで、思いのほか身体がフレッシュになっていた。脚も軽く、意気揚々と歩き始めた。ここからは鈴鹿山脈に入る。約100km以上に及ぶ鈴鹿の縦走が始まる。
序盤の油日岳、忍者岳、三国岳、那須ヶ原山など、痩せ尾根、岩場、ザレ場の連続。とにかく進まない。上りも下りもどちらも時間がかかる。3点支持でゆっくりと通過する箇所が延々と続いた。精神的にも身体的にも削られる。
途中、鈴鹿峠でいったんルートから外れて補給へ。ここでの補給に想定以上の時間がかかってしまった。鈴鹿峠以降、御在所岳までにはほぼ水場がなく、ペース配分と水の消費管理が重要になる区間だった。
ルート上に東海自然歩道と重なる場所も一部あったが、それ以外は急登と激下りの連続。とにかく時間がかかる。暗くなって気温も下がり始めた頃、雨が降り出す。ガスも出てきて前が見えない。ルートを探す時間がどんどん伸びていく。
この区間の特徴は、岩場や痩せ尾根といった危険地形だけでなく、足場が不安定なザレの登り下りが多いこと。ここで足を踏ん張るたびに筋力と気力が奪われていく。まだ2日目。これに近いような地形が、あとまだまだ続くのかと思うと、さすがにゾッとした。
当初はこの日のうちに御在所まで進む予定だったが、補給での時間ロス、視界不良、進まない地形によって大きく遅れた。結果、仙ヶ岳を越えたあたりで、ビバークを決意した。
登山道脇にツェルトを張る。風が強く、ツェルトが何度も揺さぶられる。半分夢の中にいたせいか、風の音や揺れをタヌキの襲撃と勘違いしてしまった。頭の中には数日前に友人がテント内の食料をタヌキに奪われたという話が残っていたし、夜の行動中にも何度もタヌキを見かけていた。そのせいで、ツェルトが風で動くたびにタヌキの攻撃に思え、ザックで跳ね返したりしたが、寝ぼけて夢見心地だった。
この日の反省点は補給のタイミング。激登のセクションが続いたこともあり、「歩きやすい区間で食べよう」と後回しにしていた結果、いつのまにか補給量が足りていなかった。歩きながらの補給にこだわらず、立ち止まってでもしっかり摂るべきだった。
PM23:50 ビバーク地点着|区間距離:29km(累計98km)|区間累積標高:3,200m(累計6,500m)
3日目(2025年4月22日)
AM5:30 ビバーク地点出発
小雨が降り続いている。それなりにぐっすり眠れた。時間的に、とにかく御在所岳まで行けば、あたたかいものが食べられるという希望を胸に出発する。
だが、ここからの区間もまったく進まない。とにかく鎌ヶ岳までがきつい。足場は悪く、濡れた岩が滑りやすくなっている。水もギリギリしか残っておらず、水分を節約しながらの行動。食べ物は手元にあるが、口に入れると喉が乾くため、どうしても食べる気になれない。乾いた食品を咀嚼すると、水分を取られるのがわかっていて、自然と摂取量が減っていく。昨日のように“補給タイミングを逃した”のではなく、“水不足で食べられない”という、また違う意味での補給不足だ。
水をどうにか確保できないかと、木の葉をつたって落ちる雨の雫を何滴か飲んでみた。しかしあまりに効率が悪くすぐに諦めた。体力だけでなく、気持ちの持ちようにも影響する。水が足りないというだけで、ここまで行動に影を落とすのかと痛感する。
それでも、鎌ヶ岳から御在所岳にかけての区間は整備された登山道で、歩きやすい。登山者とも多くすれ違い、ようやく人の気配を感じる時間帯が戻ってきた。挨拶を交わすだけでも元気が出る。これまでの2日間、ほとんど誰にも会わず、静かな時間が続いていたので、登山者の存在が妙に心強く感じられた。
AM10:30、御在所岳に到着。 iPhoneの電波を入れたのは、ほぼ半日ぶりだった。妻からの連絡が入っており、祖母が亡くなったことを知る。動揺と寂しさが一気に押し寄せてきたが、ここが御在所で良かったと思った。電波は安定しており、ロープウェイで下山すればそのまま公共交通機関で自宅に戻れる。
山上の売店で温かいカレーうどんを食べた。身体に沁みる味だった。静かに箸を置き、ロープウェイ乗り場に向かい、そのまま下山した。
AM10:30 御在所岳着|区間距離:14km(累計112km)|区間累積標高:1,450m(累計7,950m)
今回の反省と成功
補給について
補給自体は十分な量を持っていたが、実際の摂取量は想定の半分以下にとどまった。その結果、後半ではハンガーノック気味になってしまった場面もあった。
当初は、「行動しながら補給する」ことを前提としていたため、登りや岩場の続く区間では「少し落ち着いたところで食べよう」と後回しにしていた。しかし、そうした“歩きやすいセクション”は思ったほど訪れず、結果として摂取機会を逃してしまっていた。
今後は、動きながら食べられない地形が続くことも想定し、立ち止まってでも補給を確保する意識を持つ。特に激登が続く場面では、計画的に「ここで食べる」と立ち止まり、短時間でも確実にエネルギーを摂ることが必要だと感じた。
また、今回は固形食をメインで持っていたが、水が足りなくなると食べにくくなる。口の中が乾き、水を飲みたくなるが、水が少ないとそれもできず、結果的に食べる量が減ってしまう。水切れのリスクがある区間には、水分なしでも摂りやすいジェルなどを加えることでリスクヘッジしたい。
さらに、就寝前にバランスの良い食事を摂ると、翌日の回復が早い。今回それを強く感じたため、フリーズドライ食品の量はもう少し増やし、寝る前に温かく栄養価の高いものを摂れるようにする。また、出発前にも温かいものを食べられるように工夫したい。
ウェアについて
全体としてはかなり吟味した装備構成であり、大きな不満はない。軽量化できそうな部分もあるが、今回の山行では軽量化によって失われる機能もあるため、自分が快適に行動できる装備を優先していきたい。
今回は夜間の気温が5〜10℃程度で、ツェルト内は暖かかった。アクティブインサレーションパンツは削減しても良い。
靴下や手袋のバックアップは持っていて本当に良かった。怪我や濡れ、冷えによるトラブルを回避できたのは、これらの装備のおかげだった。予備がなければ大きな問題に繋がっていた可能性がある。
帽子は、ハットタイプの「イナフハット」を着用。自分は本格的な山を登る際、ハットタイプを選ぶことが多い。その理由は、日焼け防止はもちろん、枝や藪が耳や顔に当たる場面でも、ハットのひさしがそれをしっかりとガードしてくれるから。特にアドベンチャー的な山行では、こうした防御力のある帽子は非常に役立つと感じている。
ザックについて
今回使用したザックは、総重量が7〜8kg程度であれば、小走りしてもストレスを感じなかった。ただし、10kg近くなると長時間では肩への食い込みが厳しく感じた。ただし、この重量帯で安定して背負えるザックは他にあまりなく、揺れも少ない。ファストパッキング用の30L前後のザックとしては最適解に近いと感じている。
就寝具について
使用した「ツェルト1」は狭いが、保温性が高く雨にも十分耐えた。結露は当然あるが、エスケープビビィとレインウェアを着たまま寝ることで、ウェアや身体が濡れることはない。また、パックライナー内にウェアを入れていたため、その他の装備も濡れずに済んだ。リッチな寝心地は最初から期待していないし、軽量で設営も簡単、緊急時にも対応できるツェルト泊は今回のようなケースでは有用だと思う。
今回のピックアップアイテム
2025年のアップデートで、さらに良くなった。肌触りが以前よりも幾分しっとりした感じで気持ち良い。薄めの素材で暑い時間帯も快適だったし、夜の行動中に寒くなった際も、実際に冷えは最小限に感じた。
何よりも驚くほどの速乾性を実感できたことが今回の収穫。ポリエステル40%混ながら防臭性能は100%近いものとほぼ変わらないのではないかと思う。三日間の行き帰り含め全て着用していたにも関わらず、実際に自宅に帰って家族に匂いを確認してもらったが問題なかった。
さらにアップデートされたことは、透けにくくなったこと。以前のモデルは特に女性のお客様から、着用したいけど透けるのが気になるという声があった。スタイル的にも安心して着用できるベースレイヤーになったと思う。
着心地の良さ、防臭性能、乾きやすさ、シルエット、どれをとっても一級品だと思う。日帰りでも泊まりでも安心の一枚。
今回のTIPS
マメや靴擦れといった足裏トラブルは、一発アウトなので特にケアしたい。可能な限りドライにしたい、雨だけでなく、汗で蒸れるのも避けたい。2024年に真夏の180kmレース、くろんど輪舞曲を完走した際に薄い靴下を使うことが有用だと実感したため、薄い靴下をメインで使用した。
使用した靴下
・finetrack ラミースピンソックスクルー 44g
(軽量、耐久性のバランスが良い、すぐ乾く)
・T8 Air Socks 30g
(超軽量)
・finetrack ドライレイヤーインナーソックスクルー 23g
(本来はインナーであるが濡れた時は単独でも有用)
・Woolpower Socks 400 70g
(かなりふんわりしたソックス)
トータル 167g(うち一足は着用)
靴下が濡れた場合、ウールパワーのソックスで包む。ウールに水分を吸わせて濡れた靴下を乾かす。靴を乾かしたい場合にもウールのソックスを履くことで、靴の水分を含ませる。ロングトレイルを歩くにあたって、上記の組み合わせはトリッキーではあるが、スピードハイクも想定するようなファストパッキングであれば有用だと思う。あとは夏場の超長距離などの足裏対策に。
今後の方針
現時点で、大シガイチのうち112km / 累積標高7,950mを踏破。残りは約320km、100マイル×2回分と考えると、まだまだ道のりは長い。
今後はセクションごとに区切ってのチャレンジに切り替えるが、地形的に走れる区間であっても、トレランスタイルには移行せず、当初の想定通りファストパッキングスタイルで続ける予定。自分にとっては、ただ速く走ることよりも、「自分の荷物を背負い、自分の足で進み続けること」に意味があるからだ。
ただし、今回の経験を通して、装備の見直しは行う。不要なものは削り、必要なものは入れ替えて、より確実に進めるようにしていこうと思う。