信越五岳100mile 2026|そのためにやったことと、まだ足りなかったこと
2026年の信越五岳100mileを完走しました。
タイムは25時間57分、総合37位。前年の27時間20分から、約1時間23分の短縮です。
最低限の目標にしていた26時間切りには届きました。ただ、思い描いていたレースができたわけではありません。理想は25時間台前半。前半から泥濘で脚を使い、後半は予定していたほど走れませんでした。
それでも、昨年より後半のペースは改善し、完全に崩れることなくゴールまで進めた。うまくいった練習と、レースを通じて見えてきた課題の両方がありました。
この記事では、結果が出た方法を正解として紹介するのではなく、僕が何を課題だと考え、どのように練習し、本番で何が起きたのかを順番に振り返ります。
「ずっと走れそうな強度」を速くする
100マイルに向けて僕が重視したのは、短時間だけ速く走る力よりも、「このままずっと走れそうだ」と感じる強度で、どれだけ速く移動できるかでした。
もちろん、160kmを同じペースで走り続けられるわけではありません。登り、下り、林道、ロードで動き方は変わります。それでも、低い強度で走れる速度を高め、その状態を長く保てるようにすることが、信越五岳では土台になると考えました。
参考にしたのは、スコット・ジョンストンらの『Training for the Uphill Athlete』です。ただ、本にある週間メニューをそのまま当てはめたわけではありません。自分の弱点、回復の早さ、店の仕事、使える時間に合わせて組み直しました。
レース前に考えていた弱点は、急登だった
昨年のレースを振り返った時、自分の弱点は急登だと考えていました。
信越五岳は走れる区間が多い一方、急な登りもあります。そこで脚を使いすぎると、その後に出てくる林道や緩い下りで、自分の得意な走りができなくなる。だから目標にしたのは、急登を速く登ることだけではありませんでした。
登りを効率よく進み、呼吸と脚を使い切らず、その後の走れる区間に余力を残す。局所的な登りの速さではなく、レース全体で速く移動するための登り方を身につけたいと考えていました。
AeTは、低強度域の上限を示す境目
「ずっと走れそう」という感覚だけでは、日によって練習強度が変わってしまいます。そこで基準にしたのが、低強度域の上限となるAeT(有酸素性作業閾値)です。
乳酸は高強度になって初めて出るものではなく、低強度でも作られ、エネルギー源として利用・処理されています。強度を上げていくと、血中乳酸濃度が安静時付近から継続的に上がり始める最初の変化点が現れます。これがLT1です。AeTは実践上、このLT1や、呼気ガスから判定するVT1と近い境目として扱われます。ただし、測定法や判定法が異なるため、完全に同じものではありません。
「ゾーン2」という言葉にも注意が必要です。今回参照した山岳持久系の4ゾーン方式では、AeTがゾーン2の上限です。一方、研究でよく使われる3ゾーン方式では、LT1より下がゾーン1、LT1からLT2までがゾーン2。同じ名称でも、指す強度域が異なります。

時計のゾーン表示も、機種や設定によって区分や算出方法が異なり、これらの方式と一致するとは限りません。そのため、この記事ではAeT以下、AeT付近、LT2付近と書き分けます。
僕がAeTの推定に使ったのは、心拍ドリフトテストです。傾斜1%のトレッドミルや平坦な周回路で、一定ペースを約60分維持し、前半と後半の平均心拍を比較しました。乳酸を直接測るのではなく、一定の速度に対する心拍の変化から、AeTを間接的に推定する方法です。
心拍の上昇は5%前後を目安にしました。大きく上がれば強度が高すぎた可能性を考え、変化が小さければ別の日に少し速度を上げて確認します。暑さや疲労、睡眠、心拍計の装着状態にも左右されるため、一度では決めず、条件をそろえて繰り返しました。
テストを重ねた結果、AeT付近のペースは、傾斜1%のトレッドミルで4:25/km前後と推定しました。ただし、無風の室内で行った結果なので、ロードでも同じペースになるとは考えていません。トレイルではさらに勾配や路面が変わるため、心拍に加え、呼吸や主観的な余裕を見ながら強度を調整しました。
ここで実感したのは、低強度の上限が、必ずしも気軽に走り続けられる速度ではないということです。僕の場合、それが4:25/km前後になりました。呼吸には余裕があっても、この速度で走れば脚にはそれなりの負担がかかります。
トレーニングによって低強度で走れる速度が上がるほど、「低強度だから毎日この速さで走ってよい」とは考えられなくなります。僕にとってAeT付近の持続走は、楽なジョグではなく、目的を持って行う練習でした。この強度で60〜90分走る日と、回復を優先してもっと楽に走る日は、分けて考えていました。
登りの反復で、走力と脚の持久力を高める
低強度の練習は、それなりに積んできました。そのうえで、LT1付近で出せる速度をさらに引き上げるには、LT2付近の練習も必要だと考えていました。走力全体を底上げするために取り入れたのが、トレイルの登りを使った反復練習です。
LT2は、強度を上げた時に血中乳酸濃度の上昇が急になる、二つ目の境目です。今回の練習では、このLT2付近の心拍を上限の目安にして、約10分の登りを登り、ランニングで下る。これを1セットとして、3セットほど繰り返しました。
登っている間は、呼吸だけでなく、脚にも熱くなるような負担を感じます。その強度で20〜30分登り続けるのは難しかったため、約10分ずつに分けていました。下りの時間を長く挟むので、平地で一定の強度を維持する閾値走とは異なります。閾値付近への刺激と、登りで力を出し続ける脚の持久力の両方を狙った練習でした。
これは、ROCK STEPPERS MOUNTAIN CLUBの練習に取り入れ、毎週みんなで行っていました。信越五岳に出るメンバーも取り組んでいましたが、僕自身は十分な回数をこなせたわけではありません。それでも、登りを走ることがかなり楽になり、登る力がついてきたという実感はありました。
同じ内容を続けて慣れてきたら、負荷の見直しも必要だと考えています。登りを10分から15分に延ばす、3本を4本にする、速度を上げるなど、その時の状態に合わせて練習を進めていきたいと思っています。
登りで脚を使い切らないための筋持久力
急登で脚を使いすぎず、その後も走れる余力を残すために、もう一つ取り入れたのが、筋持久力を狙うME(Muscular Endurance)という練習です。
僕が行ったのは、約10kgの荷物を持って急斜面を登る練習でした。近くにある、登りに約30分かかる斜面を使っていました。本当はもう少し長く登り続けたかったのですが、身近に適した斜面がなかったため、この長さで取り組んでいました。
先ほどの登りの反復が、LT2付近の心拍を目安に心肺と脚の両方へ刺激を入れるものだったのに対し、こちらは荷重によって登りの一歩に負荷を加え、脚の筋持久力を高めることを狙っていました。
長時間のハイクも、筋持久力を鍛える実践として取り入れていました。8月には、次のような山行をしています。
- 8月9日:9.79km、7時間46分、累積標高859m
- 8月10日:13.13km、8時間25分、累積標高1,353m
- 8月25日:23.86km、6時間46分、累積標高1,986m
- 8月26日:14.17km、11時間09分、累積標高1,598m

走る練習だけでなく、こうして2日続けて長い時間を山で動くことも、信越五岳に向けた準備の一部になっていました。
曜日ではなく、回復してから高強度を入れる
信越五岳へ向けた練習を本格化したのは、6月頃からです。
以前のように「毎週この曜日にこのメニューを必ず行う」とは決めませんでした。一方で、何の規則もなく、その日の気分で練習したわけでもありません。
僕の中では、筋持久力、閾値走、ロング走を高強度の練習として扱いました。そして、高強度を入れる前には、最低2日間を低強度以下にすることをルールにしました。
高強度を予定していた日に、仕事やスケジュールの都合でできなければ、翌日に回します。大事なのは曜日を守ることではなく、回復した状態で目的のある練習を行うことです。
ロング走だけは、確保できる時間や一緒に走る人の予定があるため、簡単には翌日へ動かせません。その場合はロング走の日程を先に守り、少なくとも2日前から高強度を入れないようにしました。
例外として、バックトゥバックは意図的に練習へ組み入れています。疲労が残った状態でもう一度動くこと自体が目的なので、通常の高強度とは扱いが異なります。予定がずれて偶然連日になったのではなく、連続させる理由がある時だけ行い、その前後の回復まで含めて一つの練習として考えました。
追い込んだという満足感より、次の練習を目的どおりに行える状態を残す。今回の3か月で最も大切にしたのは、練習量そのものよりリカバリーだったと思います。
短い練習だけでは分からないことを、ロング走で確認する
低強度のラン、閾値走、筋持久力の練習は、それぞれの能力を分けて鍛えられます。ただ、100マイルでは、それらを疲労した状態で組み合わせなければなりません。
数時間動いたあとも、登りから林道へ切り替えて走れるか。補給を続けても胃腸に問題が出ないか。装備の揺れや擦れが時間とともに大きくならないか。前半と同じ強度のつもりでも、心拍や動きがどう変わるか。こうしたことは、短い練習では確認できません。そのためにロング走を入れました。
ただ長い距離を走ればよいとは考えていません。ロング走の目的は、距離の数字を作ることではなく、時間がたった時に起きる変化を見つけ、本番で使う地形、補給、装備、ペース配分を一つの練習で試すことでした。
意識したのは、登り、走れる林道、下りという地形の変化です。登りを終えたあとに走れるか。前半で頑張りすぎず、後半にも同じ動作を残せるか。本番で使う補給を摂りながら、その強度を維持できるかを確認しました。
準備期間中には、次のような練習を行っています。
- 7月25日:28.52km、6時間20分、累積標高1,986m
- 8月11日:60.43km、7時間13分、累積標高2,273m
- 8月13日:50.26km、7時間52分、累積標高1,722m
- 9月5日:約39km、5時間40分、累積標高約1,200m
- 9月6日:41.41km、4時間41分、累積標高1,243m





ロング走では10km程度のループを繰り返す練習も行いました。同じ地形を通るため、前半と後半でどれだけ落ちたかを比較しやすい。距離や累積標高の数字だけでなく、補給量、心拍、後半のペースを見直す材料になりました。
ロング走では、本番で使う補給を実際に摂りました。補給せずにエネルギー切れまで耐えるのではなく、食べながら走れる強度を維持する練習です。どの強度なら受け付けられるか、どのタイミングなら負担が少ないかも含めて確認しました。
100マイルを走るからといって、練習で必ず100kmを一度に走る必要はないと考えています。100kmを走ったあと、1週間まともに練習できないのであれば、僕には効率がよくありません。40〜60kmの練習を継続するほか、例外的にバックトゥバックを入れ、日をまたいで疲労がある状態でもう一度動く方が、回復とのバランスを取りながら目的の負荷を作りやすいと考えていました。
約3か月の練習量と、直前の調整
信越五岳に向けて、約3か月間、ハイクも含めて週平均約110km、累積上昇約4,000m、約20時間動いていました。毎週同じ量ではなく、仕事や山行の予定、回復の状態に合わせながら、低強度のラン、登りの練習、ロング走を組み合わせていました。
レース2週間前の走行距離は約38km、直前の週は約27kmでした。テーパリングとして練習量を落とす時期ではありましたが、自分では落としすぎたと感じています。
仕事が非常に忙しく、走る時間を確保できなかったのが実際のところです。睡眠時間もかなり減り、体調もあまり良くありませんでした。計画どおりに疲労を抜いて、万全の状態でスタートに立てたわけではありませんでした。
3つのプランと、心拍による前半の制御
レース前には、好調、標準、不調の3パターンの通過プランを作りました。
参考にしたのは、過去のリザルトの中から、自分に近い走力で前半を抑え、後半まで比較的安定していた選手です。AIも使って通過データを比較しましたが、予定時刻を追い続けるための表ではありません。想定から外れた時に、自分が今どの範囲にいるのかを判断するための幅として用意しました。
本番の前半は、走れる平地で心拍130前後、登りで140前後、急登でも150を大きく超えないことを目安にしました。これらは僕個人の数値です。気温、疲労、体調で心拍は変わるため、同じ数値を他の人に当てはめられるものではありません。
後半は疲労で心拍が上がりにくくなることもあります。数字を合わせるために無理に出力を上げず、呼吸、脚の状態、動きの変化を優先しました。
補給と装備も、練習から確かめる
補給で考えていたのは、後半まで走り続けるための糖質を、胃腸を壊さずに摂り続けることです。今回は1時間あたり糖質75〜100g、エネルギーにすると約300〜400kcalを想定していました。脂質やタンパク質のカロリーは、この補給量の計算にはあまり含めず、糖質をどれだけ摂れるかを中心に考えていました。
ロング走でも本番と同じ補給を使い、どの強度なら摂り続けられるか、一度にどれだけ入れられるか、どのタイミングなら負担が少ないかを確認していました。
中心にしたのは、おいエナとジェルです。おいエナは水に薄め、500mLのフラスクで少しずつ飲む方法が自分には合っていました。基本計画は1本を2時間で飲み、それに1時間にジェル1本を加える形。エイドではシャリ玉やみそ汁も摂りました。
前半はおおむね計画どおりでしたが、後半は自然と摂取量が落ちていきました。前半ほどの量を入れられず、これ以上入れると胃腸にトラブルが起きそうだと感じる場面がありました。予定量を最後まで守れたわけではありませんが、受け付けられる量を継続し、大きな胃腸トラブルは起こさずに進めました。暑い時期にどう補給を続けるかは、今も課題です。
装備で大切にしたのは、長い時間、走ることに集中できることです。軽さや個々の機能だけでなく、使い続けても違和感が少なく、必要な時に無理なく扱えることを重視しました。
シューズなら、反発の強さだけでなく、安定性やフィット感、長時間使った時の変化まで含めて考えます。また、今回はサポートなしだったため、次のドロップバッグまでの補給を自分で持つ必要がありました。その量を収納でき、走りながら取り出せることも、装備を選ぶうえで重要でした。
補給も装備も、練習で使い、自分に合う形を確かめてから本番へ持ち込む。具体的な装備や使用感、補給の詳しい内容は、別の記事で紹介します。

レース前半、泥濘の中で速度を抑えた
こうした準備を経て迎えた、信越五岳100mileの本番。スタートから深夜2時頃までは大雨でした。トレイルは滑りやすく、何度も脚で踏ん張りながら進みました。
転倒はしませんでしたが、滑りかけた身体を受け止める動作を繰り返し、前半から脚に負担を感じ始めていました。それは普段とは違う感覚で、いつもより早く疲労が来ていると感じていました。
その時点では、まだ走れました。ただ、このまま進むと疲労がどんどん溜まり、途中で潰れてしまうかもしれない。そう感じたため、あえて速度を上げず、後半に脚を残すことを意識して抑えました。
この判断がどれだけタイムに影響したかは分かりません。ただ、走れるかどうかだけでなく、その先まで走り続けられるかを考えて、ペースを調整していました。



後半、走れる区間で速度を保てなかった
速度を抑えて進んだものの、後半は思うように走れませんでした。心肺は全く苦しくないのに、脚が力を出しにくい。その感覚が、徐々に強くなっていきました。
100マイルの後半に、序盤と同じ速度が出なくなること自体は、今回に限ったことではありません。ただ、今回は前半に感じた普段とは違う脚の負担が、後半に響いていたと感じています。
レース後、今年の公式リザルトやCOROSの記録を振り返ると、上位選手との差が大きく開いたのは、登りよりも、終盤の林道や緩い下りでした。最後の約12kmは、登りが少なく走れる区間ですが、僕は1時間51分かかっていました。
COROSの記録でも、終盤はピッチが序盤とほぼ変わらない一方、ストライドが短くなっていました。これは、心肺の苦しさよりも、脚が力を出しにくくなっていたという自分の感覚と重なります。
だからといって、練習で本番と同じ距離や下降量を経験していなかったことを、そのまま準備不足とは考えていません。今回に向けた準備は十分にできていたと思っています。そのうえで、前半の泥濘によって普段とは違う負担がかかり、後半まで影響が残った。僕の中では、そう捉えています。
その影響をデータだけで切り分けることはできません。ただ、悪条件でいつもと違う脚の使い方になった時に、どう負担を抑え、後半まで余力を残すか。次に考えたいのは、その対応です。
うまくいったことと、次につなげたいこと
今年は、昨年よりも後半のペースを改善できました。コース配置が違うため単純比較はできませんが、距離を補正した概算では、黒姫以降の後半は昨年より1kmあたり約1分20秒速くなっています。
低い強度で持続的に走る力を高めたこと。登りの練習を重ね、登りを走ることが楽になったこと。補給を練習から繰り返したこと。そして、高強度の前に回復を確保したこと。準備してきたことには、手応えがありました。
本番では、前半の脚の負担を感じて速度を抑える判断もしました。それでも、後半に思い描いていた走りをすることはできませんでした。準備ができていたことと、本番で起きることに対応できることは、分けて考える必要があると感じています。
次は、悪条件も含めて後半に脚を残す
今回に向けた準備は、十分にできていたと思っています。それでも、前半の泥濘で普段とは違う脚の負担がかかり、それが後半に響いたと感じています。次に考えたいのは、そうした状況でも、どうすれば後半に走れる脚を残せるかです。
練習では、もう少しボリュームを持たせる方法も考えています。普段から信越五岳を想定して作っている約40kmのコースを、朝に1本走り、休憩を挟んで午後や夜にもう1本走る。2日間のバックトゥバックではなく、1日の中で二部練習にする形です。
同じコースを使えば、1本目と2本目で走りがどう変わるかも比べられます。こうした練習も選択肢にしながら、回復とのバランスを取り、後半まで走る力を高めていきたいと考えています。









