オンタケ100 - 挫折

2025年最初の100マイルは、7月のオンタケ100だった。結果は50kmでのDNF。
全体的に力が入らない。食べても走れない。体が思うように動かず、まだ3分の1という地点で、これ以上は無理だと判断するしかなかった。
理由は明確だった。練習がほぼできていなかった。100マイルという距離に対して、準備が圧倒的に足りていなかった。それだけのことだ。
非常に悔しかった。情けなかった。
マダニにも刺されていた😢
リベンジは決意した。しかし、その決意は漠然としたものだった。「次は完走する」という思いはあっても、何をどう変えるべきなのか、明確な答えは持っていなかった。ただ漠然と練習を続けていた。
そして、次の挑戦が近づいてきた。信越五岳トレイルランニングレースは9月に開催される。
信越五岳トレイルランニングレース - アカデミックなアプローチ
信越五岳トレイルランニングレースは9月13日開催。非常に走れるコースで、制限時間も短い。練習しなければ完走も危うい、そんなレースだった。
夏場、練習しなければと焦っていた。しかし効率の良い練習ができている実感がなかった。暑い中での練習は暑熱順化(体を暑さに慣れさせること)はできるが、足への刺激を高くできない。刺激を入れようとすると、どうしても暑さで先に別のダメージが来る。
そして8月初旬、コロナに罹患した。走れるようになったのは8月15日頃。レースまで残り1ヶ月を切っていた。
どうするか。答えは明確だった。削れるものを削り、やることをやる。限られた時間を、最大限に活かす。
食事の見直し
過去に食事制限をしたことはあった。しかし続かなかったし、特別な効果を見出せなかった。それどころか疲れが抜けない感覚があった。
そういうこともあり、今回は違うアプローチを取った。まず前提として、明らかにマイナスなものをやめることにした。清涼飲料水、お菓子、揚げ物。選択肢がない場合以外は、完全に断った。お酒も絶った。付き合いで呑むこともあったが、この期間に飲んだのは2回のみ。レース2週間前は完全にビールを絶った。
食事に関しては、三大栄養素のバランスを取ることは大事だと考えていた。しかし、日々長距離を走る中で、ただ均等に食べるということに疑問を持っていた。
炭水化物は運動のエネルギーになる。だから走行距離に合わせて増やしても問題ないはず。タンパク質は疲労を回復させてくれる。だから積極的に摂らないといけない。この二つの量が増やすために何も考えず食事を増やすと脂質が増えてしまう。ここで脂質を増やしても消費できず、体に蓄えられることになる。脂質を増やさず、炭水化物、タンパク質を増やすのは非常に難しかった。食べられるものが限られてくるからだ。
玄米ご飯、魚、卵、大豆類を中心に、味噌汁も毎日。プロテインでタンパク質をさらに補充した。コンビニでご飯を買う際も、おにぎりとゆで卵、豆腐サラダなどなどを選んだ。
この考え方で炭水化物とタンパク質を増やしながら練習すると、炭水化物によって練習でも体がよく動く。タンパク質によって体が回復する。すごく良いバランスで練習ができた。食べる量は増えたが、体重は減った。3週間で71kgから65kgまで、6kg落ちた。
久しぶりに絞れた😅
筋トレの導入
体を肥大させるような筋トレではなく、速筋に刺激を入れるようなアプローチを取った。脚は4回しかできないくらいの高負荷で4セット。背筋や体幹は20回を4セット。3日に1回程度、筋トレを行った。
効果は明確だった。特に山の登りが楽になった。練習中のトレイルで、明らかに違いを実感した。
練習の組み立て
2部練を実施した。朝はトレッドミルで5-10km、キロ5分から5分半のジョグペース。心拍は最大値の70%に達しないことを目安にした。夜は裏山、生駒山で5-10km。仕事の後にサクッと入れる。生駒山の麓で仕事をする、この環境は最高だ。
その日の状態によって距離は変えたが、平均でも1日15kmくらい。週に一度だけ20kmから40kmの距離走を入れた。これも生駒山。様々な道があり、走ることもできるコースもあれば、しっかりと登ることもできる。
今年の夏も暑かったので、体調を崩さないギリギリの時間を走った。
補給戦略の構築
長い距離を走る練習では、筋肉が分解されないように炭水化物を確実に補給しながら行った。筋肉が分解されて疲労が溜まると、次の練習ができなくなる。食べずに数時間走ることもできるが、結果的に練習効率は悪くなると思う。特にロング練習は、補給をしっかりしながら練習したい。
また、補給は練習しないと、ぶっつけ本番では厳しい。腸が吸収できる糖質は最大値がある程度決まっているが、練習をすることで吸収できる量は増やすことができる。吸収できなくなると、食べ物は単なる異物となり、不調の原因となる。レース前の長めの距離を走る練習では、複数回補給の練習を入れることで、胃腸を鍛える、というか吸収できる腸を作れることを実感した。
自分の補給はオイエナがベース。また、3時間に一回アミノ酸の顆粒を入れて、走りながら回復を促している。脂質は必要だが、最低限で良いのでエイドなどの固形物によって入れている。大量に取る必要はない。
レースでは1時間に炭水化物80g程度、320kcalをベースに考えて摂取する。重要なのは、カロリーで計算するのではなく、炭水化物のカロリーで計算すること。脂質やタンパク質はカロリー計算に入れない。
ただし、これはタイムを狙う場合の話だ。もっと低い心拍数であれば、こんなに必要ではない。スピードが遅く、心拍が低い状態であれば、脂質をエネルギーとして活用することも可能だし、実際食べなくても長時間動き続けることもできる。登山の時など、ほぼ補給なしで長時間動いてもなんともない。心拍が上がる場合は炭水化物を入れないとハンガーノック(極度の低血糖状態)になるが。
体質や体重、エネルギー効率などにもよるので、一概にこうと言えないのが補給の難しさだと思う。
心拍管理の原則
経験から気づいていたことがある。自分は100マイルの距離を走る時、心拍は最大値の80%以下でないと、後半に悪い影響が出る。80%を超え続けると、途端に身体が疲労していく。長時間持たなくなる。ギリギリ80%手前をキープするのが、結果的により長く速く走れる。特に序盤が超えやすいので、我慢が大事だ。
レース当日
前半から中盤まで、非常に調子良く走れた。心拍を抑えて感覚を掴んでおけば、中盤以降は時計を見る必要も全くない。時間を確認するだけで、ラップタイムや心拍管理なども省いて、走ることだけに集中できる。

しかし後半の20kmくらいで気持ち悪くなった。補給が少なくなり、歩いてしまう時間が増えた。
結果は27時間20分、総合55位。目標は30時間切りだった。最後は潰れてしまったが、想定よりも早くゴールできた。今までとの違いは、練習の質と補給の取り方、心拍数の管理。そこが一番の違いだったと思う。真剣に取り組み、自分の中ではある程度満足できる結果を残せた。

レイクビワ100 - 深い精神世界へ入り込む感覚
信越五岳から1ヶ月後、10月のレイクビワ100。信越とは違い、高低差が激しく、距離も長い。
練習は特別なことはしなかった。100マイルの疲労を抜きながら、ジョグとトレイルを適度に走る。強度の高めの刺激を、あまり長い時間かけずにいれる。そういう考え方だった。
仮想レイクビワを一度だけ
補給については修正を加えた。信越の後半で少し気持ち悪くなっていたのは、オイエナに含まれる果糖を吸収しきれていなかったのだと思う。オイエナをベースにしながら、固形物をもう少し入れることにした。咀嚼することで脳への刺激も入るし、固形物には基本的にブドウ糖が多く含まれていることが多い。ブドウ糖と果糖は腸内で吸収する回路が違うため、両方をバランスよく摂ることが大事だ。補給を取り続けると、眠たさもこない。胃腸に負担をかけないことが長時間走り続けるコツだ。
レイクビワは、スピードよりも止まらないことが大事だと思う。一定のスピードで淡々と進み続ける。無理をしない、自分のペースで、とにかく進み続ける。
よく、オンタケ100が走る坐禅と言われるが、自分はレイクビワの方が坐禅の感じ、深い精神世界へ入っていく感じを得た。レイクビワはとにかく我慢のレースだった。一人の時間も多いし、山岳要素が強い。走れるパートはしっかりと走る必要がある。
ただし、エイドでのボランティアスタッフのサポート、応援は別格で、一人の時間とのメリハリがすごい。一気に現実を取り戻して元気が出る。

結果は35時間03分、36位。だいぶ抑えて走ったが、結果的にはそれが成功した。もう少しだけ中盤から後半をプッシュして時間を削れる感触を感じた。

シェール100 - 遊びとしての100マイル
11月、神戸の草100マイルレース、シェール100。自分も運営メンバーとして関わっているこのレースに、信越やレイクビワとは全く違うアプローチで臨んだ。
信越では綿密な計画を立てた。食事を徹底的に見直し、補給戦略を構築し、心拍を管理した。レイクビワでは補給を微調整し、レースとしての100マイルを追求した。どちらも、シリアスなアプローチで100マイルと向き合った。
シェール100は真逆だ。ストイックな戦略はなし。綿密な計画もない。持ち物も補給も最低限。どこまで少なくできるか。1時間80gの炭水化物計算も、心拍80%管理もしない、感覚を頼りに走る。可能な限りミニマルに。本来の裏山での遊び方のスタイルで走る。
前夜祭で飲みすぎる😅
六甲山系を5周するループコース。周回だから、何度もスタート地点に戻ってくる。そのたびに仲間の顔が見える。参加者やペーサーとたわいもない話をしながら、いつまでも走れるペースを維持しながら。一人で深い精神世界に没入するような感覚とは対照的に、仲間との時間を楽しむ。身軽で、開放感に満ちたランニングだった。


時計では166km、累積標高8200m。タイムは29時間47分。そこそこ走れた。いや、むしろ十二分に楽しませてもらった。やっぱり六甲山系は最高だ。レース後のアフターパーティーという名の飲み会。この時間も含めてシェール100だった。
エピローグ - 100マイルの多様な魅力
正直に言うと、なぜ100マイルを走るのか、自分でもよくわからない。
冒頭でそう書いた。しかし、2025年の4本のレースを通じて、少しだけ見えてきたものがある。
真剣に取り組むレースは、自分への限界の挑戦として大事だ。科学的なアプローチで準備し、戦略を立てる。信越五岳で築いた方法論は、確かに自分を前に進めてくれた。
一人で深い精神世界に没入する時間も、100マイルの魅力だ。レイクビワで感じた感覚。意識が自分のものではないような、あの不思議な感覚。疲労の中で、あるいは疲労を超えた先で入っていく、深い精神の奥底。
でも、それだけが全てではない。
シェール100で味わったのは、また別の魅力だった。気の合う仲間たちと苦楽を共有すること。遊びの要素をふんだんに取り入れること。長い距離を、自由な気持ちで走ること。科学も戦略も捨てて、ただ山を楽しむ。
それら全て含めて、面白い。100マイルの魅力って、そんなところにもあるんじゃないか。
いや、100マイルに限らない。長時間の山行には、同様の感覚を得られるものがある。遊び方は様々だが、こういう感覚を求めて、自分は山に入っているのかもしれない。
深夜、山の中を一人で淡々と進んでいる時、あの不思議な感覚に包まれる。体を動かすこと、疲れることをただ純粋に楽しむ。自然の中に身を置いて、自然の一部になる。自分自身の体力に挑戦する。
なぜ100マイルを走るのか。
やっぱり、よくわからない。でも、それでいいのだと思う。


