はじめに:なぜCima 15を選んだのか

ゴッサマーギアの製品には長年信頼を寄せており、その品質とコンセプトには安心感がありました。新しく発売されたTYPE IIシリーズのザックの中でも最もミニマルな存在であるCima 15。見た目はデイパックですが、その設計思想は「走れるほどの機能性」を追求しています。大シガイチの最終セクション、280kmを進むのに、より攻めた山行、よりスピードを重視したアクティビティのために、さらにコンパクトなザックが必要なためこのザックを選択しました。

周囲からは「そんな小さなザックで本当にそのような工程を行けるのか」という声もよく聞かれました。確かに普通なら、こんな小さなザックで長距離山行には行きません。相当無理をする計画でした。しかし、結果的にその「普通じゃない活動」への挑戦が、このザックの真価を知る機会となったのです。

スペック概要

項目 詳細
容量 15L
重量 505g
サイズ 高さ43.2cm × 幅30.5cm × 奥行き12.7cm
素材 本体:100D リサイクルRobicナイロン(PFAS Free)<br>ポケット:UHMWPEストレッチメッシュ(PFAS Free)
価格 25,300円(税込)


デザインと機能性:細部へのこだわり

通気性の高い背面システム

僕が思う、Cima 15の最大の特徴は、その背面パッド設計にあります。取り外し不可の一体型構造ですが、これがペラペラな袋状ザックとは一線を画す安定感を生み出しています。

背面には通気用エアチャンネルが設けられ、風が吹けば空気が抜ける構造になっています。長時間の行動でも背中がヒートアップしすぎることがなく、快適性を保てます。ソフトリッジフォームとメッシュによる吊り構造により、軽量でありながら十分な背負い心地を実現しています。

逆三角形シルエットの安定性

独特の逆三角形フォルムは、重心を高く保つ設計となっています。この形状により、パッキング時の重心が自然と上部に集中し、背負った際の揺れを最小限に抑えています。アクティブな動きでも荷物が暴れることがなく、速いペースでの行動も苦になりません。

軽量ザックの新たなアプローチ

そもそもフレームレスザックのメリットは超軽量にできることですが、デメリットは背負い心地の悪さです。スリーピングマットなどを使用してフレームを作ったり、中に入れるものを工夫してパッキングで背負い心地をなんとかするのが一般的です。軽さと背負い心地を両立することは実際には難しいと思います。

トレランザックも当然フレームなど入っていませんが、体に密着させるベスト構造ということと、パッキングする荷物自体が極端に少ないので成り立っています。近年、このトレランベストのような形状をベースに、容量を15-20L前後まで拡張したザックを出しているメーカーが多数ありますが、Cima 15はその流れを汲んだザックではありません

あえて重量が嵩む少し硬めのパッドを内蔵して背負い心地を優先させています。その結果として、パッキング自体も非常に行いやすく、どんな状況でも安定した背負い心地を得ることができています。これよりも200g軽いフレームレスのザックよりも行動時には軽く感じます。左右のブレで振られる遠心力による重さが出ないからです。

充実したポケットシステム

サングラス専用「Sunroofポケット」がトップジッパー内側に配置されているのは秀逸なアイデアです。サングラスをキズや汚れから守りつつ、素早いアクセスが可能です。

両ショルダーストラップのストレッチポケットは、スマホや補給食の収納に最適です。行動中にザックを下ろすことなく、必要なものにアクセスできます。

サイドとフロントの大型メッシュポケットは、ボトルや雨具などかさばるアイテムの収納に重宝します。UHMWPEストレッチメッシュの採用により、軽量でありながら耐久性も確保されています。

実戦投入:大シガイチ280km、5日間の過酷な状況

パッキングの現実と苦悩

パッキングには非常に苦労しました。通常5日間に必要な装備を15Lのザックに収めるのは、常識的に考えて非常に困難だからです。

あれを削り、これを削り、しかし命に関わるものや行動不能になるものは削れません。最終的に最も大胆に削ったのは宿泊道具でした。スリーピングマットはほぼなし、寝袋は持参していません。エスケープビビィを基本とし、簡易的に頭部を保護するシェルターのみという構成です。

保温については、アクティブインサレーションの上下セットで対応しました。最低気温が10度を下回る状況でしたが、本当に寒い時間帯は歩き続けることで体温を維持していました。

限界を感じたのは一番最初です。食料が多く、ギリギリで、外付けにできるものをバンジーコードで縛って外付けにしていました。ただし、食料がどんどんと減ってくるにつれて、快適度は増すので、後半が楽でした。

使用環境と条件

2025年5月、滋賀一周トレイル「大シガイチ」最終セクションでの使用が、このザックの真価を測る絶好の機会となりました。

  • 総距離:約280km

  • 累積標高差:約20,000m

  • 期間:5日間

  • 宿泊:基本ビバーク

  • 装備コンセプト:可能な限り限界までコンパクトな装備

この条件下で、全ての装備を15Lに詰め込み、安定して、ストレスなく背負えるザックとして、Cima 15以外の選択肢は考えられませんでした。無理しなければ間に合わない日程だったことに加え、結果的に天候が悪かったことから想定以上に行動時間になってしまいました。

軽さの真実

重量について正直に言うと、505gという数値は超軽量ではありません。しかし、コンパクトな形状と優れた安定性により、数値以上に軽く感じられるのが特徴です。同シリーズの28Lモデルも使用した経験がありますが、スピード感ではCima 15の方が明らかに優れています。重要なのは、軽さは単純な重量だけでは測れないということです。動いた時の安定性や揺れの少なさが、実際の負担感に大きく影響します。

Fast Beltとの組み合わせ

同メーカーのFast Beltを併用することで、よりアクティブな行動が可能になりました。ウエストベルトなしでも十分な安定感がありますが、Fast Beltの追加により、重量が増えても時折腰に荷重をかけることもでき、揺れが軽減され、実際に走ることも可能でした。

背中がしっかりしているので、擬似的な腰荷重もできます。当然腰荷重できる設計ではありませんが、ショルダーを緩めて腰に載せると肩への圧力がなくなり楽に行動できます。特にゆっくり歩く平地や登りでたまに荷重をかける場所を腰に変えると長時間では楽に行動できると思います。

長時間使用での快適性

5日間、22時間/日という極限的な使用条件下でも、背中の不快感や痛みは非常に少なかったです。これは背面パッドの優秀な設計によるところが大きいです。

特に印象的だったのは、汗をかくような状況でも背中が過度にヒートアップしないことです。エアチャンネル構造が効果的に機能し、ムレを防いでくれました。背中に多少でも空気が入ることで、体温の上昇を抑えることに一役買う。その結果、体力も温存されます。

メリット・デメリット

メリット

1. 卓越した安定感 逆三角形の形状と優秀な背面設計により、アクティブな動きでも揺れが少ないです。

2. 優れた背負い心地 軽量ザックとは思えないほどの快適性があります。長時間使用でも疲労が少ないです。

3. 機能的なポケット配置 行動中のアクセス性を重視した、計算されたポケットレイアウトです。

4. 通気性の良さ エアチャンネル構造により、背中のムレを効果的に防ぎます。

5. 耐久性 100D RobicナイロンとUHMWPEメッシュにより、軽量でありながら十分な強度を確保しています。

デメリット

1. 容量の限界 15Lという容量は、パッキングスキルと装備選択が重要です。拡張性に乏しいです。

2. ジッパー開閉の制約 ロールトップと違い、最大容量が固定されます。パッキング内容の調整幅が少ないです。

3. 価格 同容量帯の他製品と比較すると、やや高価格帯に位置します。

どんな人におすすめか

日帰りハイカー全般

日帰り登山であれば、多くのハイカーが使いやすく感じるでしょう。特に背面パッドの優秀さは、軽量系ザックの中では群を抜いています。ヒートアップしすぎず、安定感もあり、非常に使いやすいです。

スピードハイカー・ファストパッカー

このザックが真価を発揮するのは、よりアクティブに動きたいスピードハイカーの使用時です。トレランザックほどのフィット感はありませんが、その分安定感があり、長距離活動をサポートしてくれます。

本来は日帰り用途がベストですが、攻めたパッキングにより一泊二日の軽量山行にも対応可能です。ファストパッキング的な使い方で本領を発揮します。

ただし、本来なら、もっと余裕のあるパッキング内容でいける山行で使いたいというのが本音です。自分にとっても今回は普通の活動ではありませんでした。

まとめ:TYPE II Cima 15の真価

大シガイチ280km、5日間の実戦投入を通じて、Cima 15の真の実力を確認できました。これは単なるデイパックではありません。スピードと軽量性を追求するハイカーのための、高機能ファストパックです。

優れた背面システム、計算されたポケット配置、アクティブな動きでの安定性など、多くの面で期待を上回る性能を見せました。容量の制約はありますが、それを補って余りある機能性を持っています。

日帰りハイキングでも当然快適に使用できますが、ファストパッキング、スピードハイクなど、アクティブな山行スタイルを追求する方には、強く推奨したいザックです。

2025/06/20

PROFILE

山根

ROCK STEPPERS店主。ビールが好き。トレイルランをメインに活動しているが、山遊びはなんでもやりたい。Youtuber活動してみたら意外と面白いのでなんとか続けていく。いつかはどんな形でも良いので超超長距離にトライしたい。