目次

アクティブインサレーションは当たり前になった

Alphaダイレクトは“万能”か?

どんなシチュエーションで使ったか?実体験に基づく活用例

どんな場面で、どんな人に

Alpha Full Zip Hoodyとともに山を歩くということ

アクティブインサレーションは当たり前になった

ここ数年で、Polartec® Alpha Direct や OCTA といった「通気する中綿素材」は広く知られるようになり、アクティブインサレーションというカテゴリも定着してきた。軽くて、行動中に着られる保温着として、多くの登山者がその便利さを実感しているはずだ。

その一方で、「暖かくて万能な中間着」というイメージも浸透していて、通気性の高さゆえの“冷え”を見落としている人も少なくない。たしかに暖かいウェアではあるが、使いどころを間違えれば、ただ寒いものになる。特に風が強い日は、それが顕著に現れる。

僕が最初にAlpha Directを使ったのは、Tilakのソフトシェルに中綿として組み合わされたモデルだった。そのときは「行動中にちょうどいい温度感のウェアだな」という程度で、特別な素材とは感じなかった。

しかし、その後、裏地も表地もない「むき出しのAlpha」や OCTA を使うようになってから、印象は大きく変わった。抜けがいい、蒸れにくい、軽い。行動中にずっと着ていられる。そんな一枚の本質に、初めて気づいた。

もちろん、この素材が万能かといえば、そうではない。風が強いときには一気に冷えるし、体温を保持する力そのものはダウンなどには及ばない。ただ、風がなければ、行動を止めたときでもじんわりと暖かさが残る。だからこそ、「どう使うか」が何よりも重要になる。

僕にとっては、使い方を理解していれば、その範囲の中では万能な存在だ。軽さ、通気性、保温性。そのバランスが絶妙で、レイヤリングの軸としてとても信頼できる。

だから今回、RIDGE MOUNTAIN GEARのAlpha Full Zip Hoodieについて、レビューを残そうと思った。スペックだけでは見えてこない、使いながら得た実感を書いていきたいと思う。

Alphaダイレクトは“万能”か?

Alpha Full Zip Hoodieを使っていて便利だと感じるのは、行動中に着続けられる温度感だ。暑すぎず、寒すぎず、そして蒸れにくい。登っているときでも不快にならず、そのまま着ていられるバランスがある。

このウェアは、薄手ながら空気を抱き込んで保温力を生み出す構造になっていて、シェルなどを上に重ねることで、しっかりと暖かさを感じられる。風を遮るだけで、Alphaの中に生まれた空気層が体温を保ってくれる感覚がある。

もうひとつ特筆すべき点は、濡れたベースレイヤーの乾きやすさだ。たとえば、汗で濡れたTシャツの上にAlphaを着てしばらくそのまま過ごしていると、自然と乾いてくることがある。おそらくこれは、毛細管現象と通気性の働きによって水分が拡散・放出されるからだと思う。これはフリースやダウンではなかなか得られない性能で、乾燥を促すレイヤーとしても優秀だと感じている。

保温力に関しては、もちろんフリースやダウンの方が単体での暖かさでは上回る。ただしAlphaは、通気と軽さという特性の中で適度な保温力を発揮するバランス型のウェアだ。

僕自身の感覚でいえば、風がなければ気温10℃くらいまでは、Alphaとウィンドシェルの組み合わせで停滞も問題なくこなせる。一方で、風が強く、気温が低くなるような場面では、この1枚だけでは明らかに物足りない。そのような環境では中間着や軽量なインサレーションを足す必要がある。

その補完として僕がよく組み合わせているのが、100g台の軽量な化繊インサレーションジャケットだ。いわゆる“モフモフ系”のダウンに頼らずとも、Alphaをベースにしたレイヤリングで十分に暖かさを確保できる。しかもそれらは行動着としても使えるので、停滞用・行動用のウェアをさらに別途持っていかなくても済むという利点がある。

Alpha Full Zip Hoodieは、単体で万能なウェアではない。だが、使い方を理解し、レイヤリングの中核に据えることで、装備の設計をシンプルに、かつ合理的に組み立てられる存在だと思っている。

どんなシチュエーションで使ったか?実体験に基づく活用例

3シーズンにおける軽量行動着としての汎用性

Ridge Mountain GearのAlpha Full Zip Hoodieは、特に春から秋にかけてのスリーシーズンで活用している。日中の気温が高いときにはもちろん着ないが、寒暖差のある春先や晩秋、あるいは夜間行動が含まれる場面では非常に重宝する。
このウェアを「着たまま動ける保温着」として評価している理由は、通気性と軽さが両立しているからだ。体が熱を持っている状態を維持しながら、適度に空気を含んでくれる。それがこのウェアの持つ“ちょうどよさ”だと思う。

実際に使用した場面 / 大峯奥駈道

5月に歩いた大峯奥駈道では、長時間の行動中に雨に打たれてベースレイヤーが濡れてしまった。気温も低く、風も強かったため、停滞中の冷えを防ぐ目的でAlpha Full Zip Hoodieをベースレイヤーの上から着用。すると、肌に直接触れていたベースレイヤーの水分がじわじわと抜けていき、徐々に身体が温まっていくのを感じた。

このときの構成は、濡れた長袖ベースレイヤーの上にアルファ。その構成だけで保温性は十分に担保された。また雨の際はレインウェアの内側でも快適に過ごすことができた。

実際に使用した場面 / 大シガイチ

このウェアの実力を痛感したのは、大シガイチでの夜間行動時だった。真夜中に雨に打たれ、衣類はもちろん、肌までもが完全に濡れきってしまった。乾いた衣類はAlpha Full Zip Hoodieのみ。風がなかったのは幸いだったが、寒さによる体温低下が進行している感覚は明確にあり、低体温症になるリスクを感じていた。

着替えようにも、乾いた衣類がない。そこで、体を温めるために、素肌に直接アルファを着た。その瞬間、肌の表面に残っていた水分がサッと引いていく感覚があり、濡れでこわばっていた皮膚が一気に楽になった。しばらくすると、徐々に体が温まり始め、結果的には狙っていた以上の効果を得ることができた。

結構危なかった汗

この時は本当に「命が救われた」と感じた。Alpha Full Zip Hoodieがなければ、あのまま体が冷え切って危険な状況に陥っていた可能性もある。それだけに、このウェアの「水に強く、乾きやすい」という性質は、通常の行動着としてだけでなく、非常時の体温管理という点でも信頼できるものだと確信している。

レイヤリングの幅を広げてくれる1枚

このウェアの強みは、行動着・停滞着・就寝着と幅広く使えるだけでなく、他のレイヤーとの組み合わせ次第で柔軟に役割を変えてくれる点にもある。
下に薄手のシャツや長袖のベースレイヤーを合わせれば調整幅は広がるし、上にウィンドシェルを羽織るだけでしっかりと保温力が増す。個人的には、寒さが厳しい時期ほどアルファを肌に近い位置に配置して、他のレイヤーで空気の層を作るようにしている。

どんな場面で、どんな人に

3シーズンを通じて幅広く活躍する1枚

Alpha Full Zip Hoodyは、春から秋の登山・縦走・ファストパッキングといった行動において、非常に幅広く活用できるレイヤーだ。
保温性と通気性のバランスが絶妙で、行動着としても停滞着としても機能する。行動中に着続けることができる数少ないインサレーションだ。

ダブルジップ仕様により、温度調整の幅が広く、細かい換気がしやすいのも大きな特徴。開け閉めの調整だけで快適性をコントロールできるため、脱ぎ着の頻度が減り、行動効率も上がる。

また、Alpha素材は速乾性に優れ、濡れても乾きやすいため、山行中の衣類の総量を減らすことができる。これにより、装備の軽量化や、ダウンなど厚手の中間着を省略する選択肢が広がってくる。

登山後・下山後まで使える汎用性

Alpha Full Zip Hoodyは、登山中だけでなく下山後にも違和感なく着続けられるデザイン性を備えている。温泉帰りや宿での時間、さらには街での移動までシームレスに使えるのは、厚すぎず、かといって頼りなさすぎないこの絶妙な厚みゆえ。

結果として、山から街までの“つなぎ”のウェアとしても活用しやすく、1枚で複数の役割を担ってくれる。

組み合わせで変わる快適温度帯 シャツとの相性の良さ

特に印象的なのが、シャツとの組み合わせの相性だ。Alphaをシャツの下に着ると、肌に近い位置で温もりをしっかりキープしながら汗を効率よく逃してくれる。この使い方は、行動中でもっとも保温性が高く、冷えやすい時間帯や標高の高い場所に適している。

一方で、シャツの上に着る使い方は、保温性はやや劣るものの、生地が一枚あることで空気の層を活かした穏やかな体温調整が可能になる。風が弱く気温がそこまで低くないシーンで、肌当たりが涼しくなりすぎないよう、調整の役割を果たしてくれる。

このように、Alphaをどの位置に着るかによって快適な温度帯が変化する。登山中の気象変化や行動の強度に応じて、レイヤリングを組み替える柔軟さが、このウェアの真価でもある。

こんな人に勧めたい

Alpha素材はもともと、暑いときには蒸れを逃がし、寒いときには熱を保つ、そんな特殊部隊向けに開発された素材だ。登山というアクティビティにおいても、その特性は極めて有効だと思う。基本的には、登山をするほぼすべての人に勧めたい。荷物の軽量化を意識しつつも快適性を犠牲にしたくない人にとっては、まさに“レイヤリングの中核”となる存在になる。

厚すぎない、軽い、通気性がある、デザインがよい、という要素がそろっており、トレイルだけでなく前後の移動や宿泊、街での使用まで想定できることから、多くの人が着続けやすいと感じるウェアでもある。

Alpha Full Zip Hoodyとともに山を歩くということ

Alpha Full Zip Hoodyを選んでよかったと思った場面は、一度や二度ではない。特に大シガイチの夜間行動で、雨に濡れて冷えが強まる中、唯一乾いたこの一枚を素肌に着て寒さをしのげた経験は、自分にとって大きな意味があった。

自分の体調や環境、そして気象の変化に合わせて、ウェアの選択やレイヤリングを調整していく。その試行錯誤の中で、Alphaは確かな安心感を与えてくれる存在になった。

山においては、完璧な装備や万能な1枚というものは存在しない。常にその時々の状況に対して、どれだけ柔軟に対応できるか、どれだけ経験をもとに判断できるかが重要になってくる。

Alphaは、そうした“経験を支えてくれる”ウェアだと感じている。調子の悪いときでも、天気が急変したときでも、装備選びに迷ったときでも、Alphaをザックに入れておけば安心できる。自分自身の“行動の余白”を広げてくれる存在だ。

2025/06/19

PROFILE

山根

ROCK STEPPERS店主。ビールが好き。トレイルランをメインに活動しているが、山遊びはなんでもやりたい。Youtuber活動してみたら意外と面白いのでなんとか続けていく。いつかはどんな形でも良いので超超長距離にトライしたい。